Mawariとは

Mawariは、XRを支える重要な技術提供者としての位置づけを確立しています。MetaやAppleのような大手企業が注目を集める一方で、Mawariのような裏方のプレイヤーこそがXRの真の可能性を解き放つ存在です。テクノロジー業界では「ゴールドラッシュでは金を掘るよりもツルハシやシャベルを売る方が有利」と例えられますが、Mawariはまさにその役割を果たしています。

前回の記事では、MawariがAIエージェントを実現する役割について触れました。しかし、そこから生じる重要な疑問は、それをどのように実現するのか。
今回はどのようにMawariが現在の地位を確立したのかを掘り下げていきます。

Mawariのポジションと実績

Mawariは、積み上げてきた7年間の経験と直近の戦略的な資金調達により、大きな前進を遂げています。まだ黎明期にある空間コンピューティング分野において、すでに収益を生み出している数少ない企業の一つであり、2024年には150万ドル以上の売上を達成しました。

では、「誰」がMawariを支えているのでしょうか?
Mawariのチームは、3つの主要なスタートアップの売却・上場を成功させ、コンピュータグラフィックス、AR、ネットワーク分野で50年以上の経験を誇ります。

Mawariのロードマップと完全に一致したスキルセットを備えた、Meta、Google、Magic Leap、Foundry、Grayscale、FalconXといった企業出身の優秀な人材が集まっています。

では、Mawariはどのようにして現在の地位に辿り着いたのか? ここから、その歴史を紐解いていきます。

現実と理想のバランス

Mawariの背景を深く掘り下げる前に、Mawariのような技術提供者やインフラ企業が持つ価値を正しく理解するための文脈を押さえておきましょう。

テクノロジーの分野では、「未来を想像すること」ばかりに焦点が当たりすぎるという過ちが繰り返し起こってきました。確かに、新しい技術がどのように使われるかを想像するのは良い思考実験です。しかし、技術的な現実を無視することで、過度な期待を生み、結果的に技術の信頼性を損なうことが多くありました。

では、このような事態を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。

一つ目は、XRの未来を語る際に、技術的な課題を認識し、過剰な期待を煽らないこと
二つ目は、XR業界の発展のために、その技術的課題を克服すること

後者のアプローチこそが最も影響力を持っているので、現在、MetaやAppleのような企業が年間数百億ドルを投資し、XRの普及を加速させています。

しかし、ハードウェアやホログラフィ技術が進化し、大衆がXRデバイスを手にし、豊富なコンテンツライブラリが揃ったとしても、もう一つの大きな課題が残ります。

それが、「安定したコンテンツ配信とインフラの整備」です。ここで、Mawariが登場するのです。

Mawariが見つけた「欠けていたピース」

Mawariの歴史は、2017年に創業者Luis Oscar RamirezがXR革命の技術的な裏方になるというビジョンを描いたことから始まります。当時、多くの人がXRの未来について語っていましたが、Luisはそこに決定的に欠けているものを見つけました。

それが、リッチなXR体験を「安定して配信できるインフラ」です。
XRの体験は、大量のデータを必要とし、従来の2D向けインフラでは到底対応できませんでした。

XRのハードウェアやソフトウェアが目的に合わせて設計されているように、そのインフラも同様に、独自かつ広範なニーズに対応できるよう、それぞれに合わせる必要があります。これらのニーズには、デジタルと物理の対象間での立体的な相互作用に加え、低遅延や高パフォーマンスといった要素が含まれます。

一方で、Netflixのようなストリーミングサービスは、安定したコンテンツ配信が当たり前であるという基準を世界に浸透させました。2Dから3Dへと進化が進む中で、XRもその期待を引き継ぐことになります。そのため、消費者はおそらく低品質なストリーミングを受け入れてはくれないでしょう。

これらを踏まえると、ボトルネックを解消し、通信の処理能力を向上させる必要があります。従来、この課題は「通信経路の拡張」または「コンテンツの最適化」のいずれかで対処されてきました。前者にはエッジコンピューティングなどが関わり、後者にはmp3のような圧縮技術によって解決されてきました。

XR業界のMP3を目指して

これらの課題を解決するために、Mawariはまずデータ圧縮に着手しました。創業当初、Luisが直面した重要な問いのひとつが、「XRにおけるMP3とは何か?」というものでした。この問いに導かれ、Mawariは劣化しない3Dファイル圧縮コーデックという画期的な技術を開発しました。

次に取り組んだのが、空間レンダリングとストリーミングの仕組みです。MawariのSpatial Streaming SDKとしてパッケージ化されたこの技術は、クラウド上で3Dコンテンツをレンダリングし、それを効率的にデバイスへ配信します。つまり、処理やレンダリングの負荷をクラウド側に持たせることで、スムーズなXR体験を実現できるのです。

このアプローチでは、スマートフォンのような処理能力の限られたデバイスではなく、クラウドの強力なメモリや計算リソースを活用します。圧縮コーデックを活用することで、XR体験を安定させ、最適に負荷を分散させることが可能となります。

例えば、3D要素はクラウドからストリーミングされ、デバイス側では空間認識などを処理することで、XR体験が物理空間とリアルで連携するように調整できます。こうした「分散レンダリング」により、最適なバランスで計算負荷を分散することができます。

また、SDK(ソフトウェア開発キット)として提供することで、この技術はXR開発者にとってスケーラブルなソリューションとなります。これにより、開発者は自身のコンテンツ配信・配布能力を大幅に強化できます。

しかし、Mawariが真のポテンシャルを発揮するには、もうひとつ重要な要素が必要でした。
それが「ネットワーク」です。

「DePIN」という希望

ここで、現在のMawariの取り組みである「Mawari Network」の話をします。前回の記事で少し触れたように、このネットワークは、XRの可能性を解き放つ鍵となる可能性のある「DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Networks)」と呼ばれる新しい概念に基づいています。

Mawari Networkは、このDePINの考え方を活用し、地理的に分散したGPUノードを用いた分散型ネットワークを構築しています。このネットワークを支えるのが、「Guardian Nodeライセンス」です。これは、個人の未使用のコンピューティングリソースを活用し、トークン報酬をインセンティブにしてネットワーク全体の処理能力を強化する仕組みです。

このアプローチにより、従来のネットワークが抱えるボトルネックを回避できます。
従来の中央集権型サーバーシステムでは、ネットワークの末端に十分な数のGPUが存在せず、XRの大量のデータ通信を支えきれないという課題がありました。その結果、地理的に近いGPUノードがないため、XRをグローバルにストリーミングすることが難しくなっていました。

XRコンテンツはデータ量が膨大であるため、ネットワークエッジにあるGPUノードから一定の距離以内でなければスムーズにストリーミングできません。しかし、現状ではそのような分散型GPUインフラが存在しておらず、AWSやGoogle Cloudでさえ、XRをグローバルにカバーするだけのGPUキャパシティを持っていないのが現実です。

さらに、XRの普及率がまだ比較的低いため、AWSやGoogle Cloudのような大手クラウドプロバイダーにとっては、このインフラを拡張するのに二の足を踏む状況でした。

このネットワークエッジにおけるGPU不足こそが、XRの普及を妨げる障壁であり、MawariがSpatial SDKを提供する上での課題であると、Luisは見抜きました。そして、彼はそれを自ら構築することを決めたのです。

スペーシャルCDN

これらをすべて組み合わせると、Mawari Networkは一種の分散型コンテンツ配信ネットワーク(CDN)として機能することがお分かりいただけるかと思います。CDNは、従来の2Dのwebにおいて確立されたネットワーク技術ですが、Mawariはこれを空間コンピューティング(Spatial Computing)向けに最適化しています。これは、前述した「XRに特化したインフラの必要性」に完全に適合します。

そして、このシステムはすでに機能しており、この分散型ネットワークは帯域幅(データ通信量)を約80%削減することができます。これは、コスト、パフォーマンス、信頼性に直接的かつ具体的な影響を与えます。

さらに、空間コンピューティングの需要が高まるにつれ、Mawari Networkの価値も比例して成長することが予想されます。

しかし、最後に残る疑問は、これまで何度も問いかけてきた「どのように実現するのか?」という点です。

Mawariはこのネットワークをさらに拡大させるために、ノードセールを実施します。近日中に世界中のユーザーがこのネットワークに参加し、その処理能力を強化しながら、同時に収益を得ることができるようになる、新しい時代が始まります。