DePINの力でAIエージェントはもっと自由になるのか?

Mawariは、AI、空間コンピューティング、Web3の交わる地点を革新し、「Digital Humans as a Service」を通じてAIエージェントに“いのち”を吹き込みます。

先日、東京で開催されたMUTEK.JP Pro Conferenceにて、観客はあるパネルディスカッションを目の当たりにしました。モデレーターが登壇者に質問を投げかけ、登壇者が見解を述べる——この光景は、ビジネスカンファレンスやテック系のイベントに参加したことがある人なら見慣れたものでしょう。

しかし、この会場では一つだけ違う点がありました。モデレーターは、そこに存在していませんでした。
彼女は物理的な存在ではなく、「デジタルな存在」でした。観客がARヘッドセットを通じて見ると、モデレーターのステージ上の姿は、ホログラムとしてレンダリングされていました。

この体験は、AI、空間コンピューティング、Web3が交わることで生まれる可能性を示す、驚くべき一例です。そして、この技術はビジネスカンファレンスのユースケースに限らず、物理的な移動によるコストや炭素排出の削減といった利点に加え、幅広い応用が可能です。

例えば:

  • ミュージシャンが地球の反対側にいながら、同じステージで演奏する

  • 政治家が一か所から世界中の複数の都市で、同時に演説を行うことで移動やそれに伴う手配の手間を省き、政策立案に集中できる

これらは、考えられるユースケースのほんの一例にすぎません。

Mawariとは?何を、なぜ、どう実現するのか?

ここまで述べたのは、「何ができるのか?」と「なぜそれが重要なのか?」という表面的なものです。しかし、もう1つ重要な問いがあります。

それは「どうやって実現するのか?」です。

実際に空間コンピューティングの世界、特にメタバース領域は、非現実的な約束や未来のビジョンばかりが先行し、現時点での技術的な制約を考慮しないまま進んでしまったという問題があります。したがって、この未来に向けたビジョンには、実現可能性を考慮することが不可欠です。

そこで登場するのがMawariです。
当社の技術は、これらのバーチャルヒューマンのシナリオを実現可能にします。

実際に、前述のバーチャルパネルのモデレーターも、Mawariの技術によって実現されました。
これは、Mawariの「Digital Human as a Service(DHaaS)」の取り組みの一環であり、さまざまなユースケースに向けて拡張性があり、信頼性の高いバーチャルアバターを提供することを目指しています。

MawariのDHaaSの最新のマイルストーンは、Meta Osakaとのコラボレーションです。
このプロジェクトでは、高解像度のAI搭載デジタルヒューマンガイドを開発し、主要な交通拠点、商業施設、観光地などで来訪者と対話できるようにします。

2025年春 から、これらのデジタルヒューマンは、多言語対応の自動応答機能を備え、観光案内や施設案内を支援する予定です。

MawariのDHaaSは、私たちがこれまで手がけてきたバーチャルアバターの開発実績を基盤としています。

例えば、日本の通信大手KDDIと協力し、2020年に「Aiko」を開発しました。
これは、小売店やギャラリースペースでの来訪者をサポートする具現化されたデジタルアシスタントであり、主にモバイルARインターフェースを通じてユーザーと対話するものでした。

現在、DHaaSの焦点は、AIエージェントを進化させ、よりリアルに、さらなる対話レベルへとスケールさせることにあります。これには、Apple Vision Proや未来のスマートグラスも含まれます。

最も重要なのは、Mawariがこれをグローバル規模でスケーラブルかつ信頼性高く実現することを目指している点です。

しかし、この「スケーラブルで信頼性の高い実現」が、AIエージェントを実用化する上で最大のボトルネックとなっていました。

XRの可能性

では、ボトルネックとは何でしょうか? それは、インフラの不足に集約されます。

例えば、先述のKDDIとのAikoプロジェクトでは、MawariはKDDIの5Gとエッジサーバーを活用しました。これらのインフラは、大量のデータ処理と低遅延を実現し、デジタルヒューマンやXRのような、大量のデータをリアルタイムで送受信することを可能にする重要な要素です。

しかし、問題はこれらが世界規模で普及しているわけではないということです。

技術的な制約における本質的な問題は、最も近いサーバーまでの距離にあります。AWSやGoogle Cloudのような大きなクラウドサービスでさえ、データを素早く処理する技術で使うGPUの数と性能が足りないので、デジタルヒューマンをどこでも動かせるわけではありません。ちなみに、これがGoogleのゲームサービス「Stadia」が失敗した理由の1つです。

このボトルネックを踏まえ、Mawariはレンダリングエンジン、圧縮技術、高度なネットワークを組み合わせたシステムを構築しました。特に高度なネットワークが、DHaaSの可能性を解き放ち、スケールさせるための最後のピースとなっています。

そして、ここで重要なのが「DePIN」です。これは「Decentralized Physical Infrastructure Networks(分散型物理インフラネットワーク)」の略称であり、新たなWeb3の分野としてXRの可能性を引き出す鍵となるかもしれません。

DePINは、従来のように中央集権型のサーバーに依存せず、GPUを搭載した分散型のノードネットワークを活用することで機能します。これにより、負荷分散と通信可能範囲の拡大を実現するだけでなく、帯域幅の使用量を約80%削減することができます。これにより、コストが下がり、品質は良くなり、システムも安定するというメリットがあります。

注目すべき発展

Mawari Networkは、この原則に基づいて構築されており、世界中に分散したノードを活用してネットワークを構成しています。ウェブインフラに詳しい人であれば、この仕組みは従来のCDNに似ていると感じるかもしれません。

しかし、Mawari Networkは特に大量の帯域幅を必要とする3Dコンテンツやリアルタイムのインタラクションに特化している点が異なります。

Mawari NetworkがCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)と異なるもう一つの大きなポイントは、「分散されたノード」の性質です。つまり、このノードは私たち一人ひとりが提供できるものなのです。

Mawariの「Guardian Nodeライセンスプログラム」を利用すれば、最低限のスペックを持つコンピューターを持っている人なら誰でも、ネットワークの一部としてノードを運営できる仕組みになっています。

これにより、多くの人々が計算リソースを提供し、分散型ネットワークを支えることができます。さらに、ノードを提供した参加者には報酬が与えられます(詳細は近日発表予定)。

また、ネットワークの信頼性を確保するために、MawariはKDDIとの長年の協力関係を基盤としています。KDDIはインフラ管理パートナーとして、Guardian Nodeを安全なサーバー上で運用する役割を担います。これにより、Mawari Networkのセキュリティ、信頼性、安定性がさらに向上します。

しかし、KDDIだけがパートナーではありません。今後、さらに多くのパートナーシップの発表が予定されています。

全体として、この機会はWeb3とXRが交わる領域の中でも、まだ狭いながらも非常に価値の高い部分を占めています。多くのテック業界の専門家たちは、この融合について語り、メタバースの未来を想像しています。しかし、Web3とXRが今まさに実際に融合し、デジタルヒューマンやその他の新しいアプリケーションを生み出している場こそが、Mawari Networkなのです。

次回の記事では、Mawariの歴史、設立理念、そして技術的な進化について、さらに掘り下げていきます。